日本郵船は2024年3月末時点で、帳簿価額で13,905,000,000円の賃貸等不動産を所有しています。 これは時価で70,711,000,000円の価値としています。 賃貸等不動産の時価が帳簿価額の5倍以上となっており、貸借対照表に計上されない、見えない資産が巨額になっている状況です。 そんな日本郵船が丸の内の一等地に所有する自社ビルについての記事です。

現在の日本郵船の本社ビルは「郵船ビルディング」という名前で、1978年に竣工した築50年近い建物です。 行幸通りと日比谷通りに面した、和田倉門交差点の一角という超一等地に位置しています。 所在地は東京都千代田区丸の内2-3-2ですが、この郵船ビルディングが竣工する前に、旧郵船ビルディングが存在していました。 このビルが竣工したのは大正時代の1923年。日本郵船は2つの建物を通して、100年以上に渡り現在の土地に本社を構えているのです。

2023年7月、日本郵船は現在の郵船ビルディングを建て替えを検討すると発表しました。現時点で竣工は2030年代前半を目標とするとのことです。この計画が実現すると、さらに50年、100年と皇居の目の前で日本の海運を支えていくことになるのでしょう。

長い時を経て日本郵船で受け継がれているこの丸の内の土地は会社の経理としてどのように扱われているのでしょうか。 当記事は、有価証券報告書の第３　【設備の状況】にどのように記載がなされているかをご紹介します。

2024年3月期の有価証券報告書では、船舶及び航空機以外の主要な設備として郵船ビルディングについて記載しています。 ここの箇所で帳簿価額として記載している金額は下記のとおりです。

• 建物及び構築物: 6,938,000,000円
• 土地: 4,320,000,000円　（4,579㎡）
• その他: 268,000,000円

この記載から、本社ビルの土地は帳簿価額で43億2000万円で計上されていることがわかりますね。これを1㎡あたりの金額とすると、 943,437.43円/㎡ となります。

ここでいったん日本郵船の土地から離れ、丸の内の近隣の実際の土地の価格について考えてみましょう。 国土交通省が公表する令和6年地価公示を参照します。 令和6年の公示価格高順位表（全国）のなかで、郵船ビルディングと丸の内仲通りを隔てて隣に位置する丸の内ビルディングの土地（東京都千代田区丸の内2-4-1、三菱地所所有）が記載されていました‼️ まあ丸の内は日本の超一等地ですので、全国の中で高い順位に位置するのは不自然ではない話です。

しかし、注目すべきは公示価格の金額です。 この丸の内ビルディングの土地の令和6年公示価格は

36,800,000円/㎡です‼️

この公示価格と郵船ビルディングの土地の帳簿価額について考えると、 日本郵船は本来1㎡あたり3680万円程度の価値がある土地を取得価額では94万3000円程度で保有しているということになります。 これを郵船ビルディングの土地4,579㎡で概算すると 43億2000万円で計上している土地は現在の公示価格で1685億円となります。

土地は財務諸表上取得価額で計上され、減損されないかぎり時価は貸借対照表上に反映されません。まさに見えない含み益です。 郵船ビルディングの土地は1,500億円を超える含み益を生んでいると考えて良いでしょう。 もっとも、日本郵船は本業は不動産ではなく海運業であり、2025年の1月では時価総額は2.5兆円程度にのぼります。 土地の含み益1,500億円以上は巨額ではありますが、時価総額と比較すると経営に絶大なインパクトを与えているかを考えると難しいところはあります。 ただ、この土地の含み益と時価総額の差額が縮小することがあれば、市場や投資家から注目を浴びる可能性はなきにしもあらずです。

以上、有価証券報告書の設備の状況を参照した日本郵船の自社ビルの分析でした。 自社ビルの分析は個人的にも面白く、上場企業4000社の中には、日本郵船よりも注目すべき状況にある企業が存在しているかもしれません。